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クラウジウスの原理とトムソンの原理の等価性について

初めての方ははじめまして. 元々読者の方は(いないでしょうが)お久しぶりです. 筆が遅いのでなかなか記事が書けません. すみません.

さて, 今回のテーマは熱力学第2法則です. 大学入試ではまず聞かれることのないことなので, あまり重要視しない方も多いでしょうが, そんなことはありません. 非常に重要な意義を持った法則です. そんな熱力学第2法則ですが, じゃあどのようなことを言っているのか? と聞かれると, いくつかの答えが存在します. それらがちゃんと同じことを言っているのか, カンタンに確認してみようというのが本稿の狙いです. 対象読者は熱力学を全くorほぼ勉強したことのない人ですから, プロはぶん殴らないでください. 僕も熱力学が専門ではありません. なお, *1にも

多くの熱力学の教科書や演習書に, 第二法則のこれらの異なった表現(の内いくつか)が互いに「同値」であるという記述が見られる. ただし, このような「同値性」の「証明」は, 多くの場合論理的にあまり厳しくなく, 熱力学における他の様々な仮定を暗に用いていることが少なくないことは知っておくべきだろう.

とありますが, 本稿でも「同値」とは表現せず「等価」ということにします......文章の綾と言われればそれまでですが, まあそこまでツッコめる方はこんな記事など読む必要はないはずです.

クラウジウスの原理

「低温の物体から熱をとり, 高温の物体に熱を与える以外に何の変化も残さないことは不可能である」という法則です. たとえばエアコンは低温の空気から熱をとり, 高温の空気へ熱を与えています. この過程は電気的エネルギーを消費することによって実現するものであって, たとえどんなに状況を設定したところで(サイコロを10の何十乗回振ってすべて1が出る確率と同じぐらいの起こりえなさで)何もせずに低温から高温へと熱が移動することはありえません.

トムソンの原理

「1つの熱源から熱をとり, これをすべて仕事に変える装置は存在しない」という法則です. たとえば夏のあっつい時期なんかに「空気のもつ熱エネルギーを動力に変換し, 冷たい空気を排出する」という装置を作ってみましょう. 巷で騒がれている地球温暖化とやらも資源問題とやらも公害問題とやらもすべて灰に消え去ってしまうような機関ですね. しかもエネルギー保存則にも反していないので大丈夫そうです. ところが, これは経験的に作れないことが分かっています. 多くの発明家たちが我こそはと名乗りを挙げたものの全てが水の泡へと帰したことは歴史が証明しているとおりです. やっぱり自然は優しくない.

さて, もし, クラウジウスの原理からトムソンの原理が導かれ, 逆にトムソンの原理からクラウジウスの原理が導かれれば, これらは等価な仮定だと言うことができそうです. そこで早速示してみましょう.

クラウジウス→トムソン

対偶をとります.
もしトムソンの原理が成り立たないとすると, 低温の熱源からもらった熱を全て仕事に変換する装置が存在します.
これを高温の熱源に与えれば熱を与えたのと同じことになるので, 他に影響を与えずに低温から高温へと熱を与えることが可能となってしまいます.
これはクラウジウスの原理の否定です. したがって, 示されました.

トムソン→クラウジウス

これも対偶をとります.
もしクラウジウスの原理が成り立たないとすると, 低温から高温へ何の変化も残さずに熱を与えることができます.
そこで, 熱を仕事に変える装置というのは, 熱源からいくつかの熱を仕事に変えるものの, 少なからず低温の熱は排出することになるわけでした(もし排出しなかったらその瞬間にトムソンの原理は成立します).
そこで, 排出した低温の熱から何の変化も残さずに高温の熱源へ熱を与えることができます.
これは1つの熱源からすべて仕事に変えている装置になり, トムソンの原理の否定です. したがって, 示されました.

ちなみにトムソンの原理で呼ばれる装置のことを第二種永久機関と呼びます. なんだか永久機関ってFFの世界観に出てきそうですよね, 出てきそうじゃないですか? まあいいんですけど. 他にもトムソンの原理やクラウジウスの原理からエントロピー増大則なども従ったりします.

マクスウェルの悪魔

ただ単に上に述べたようなことだけが熱力学第二法則の言うところだったならば, まあまあ大事かな〜ぐらいの法則です. しかしながら, 問題は1872年にマクスウェルが彼の論文 (Theory of Heat) で次のようなものを発表することで, 事態は大きく変化します.

  1. 均一な温度の気体で満たされた容器を用意します.
  2. この容器を微小な穴の空いた仕切りで2つの部分 A, B に分離し, 個々の分子を見ることのできる知性の持ち主がいて, この穴を開け閉めできるとします.
  3. この存在は, 素早い分子のみを A から B へ, 遅い分子のみを B から A へ通り抜けさせるように, この穴を開閉するとします.
  4. この過程を繰り返すことで, 穴を開け閉めする人は仕事をすることなしに, A の温度を下げ, B の温度を上げることができ, これは熱力学第二法則と矛盾します.

この「知性の持ち主」のことを, マクスウェルの悪魔といいます. 何度も言うように僕も熱力学の専門家ではございませんから, この問題がキチンと解決されたのかどうかすらよくわかりません. 後に述べる東大工学部の研究結果ではそこらへんのことが詳しく書かれているわけではないので、まだ決着付いてないんでしょうかね。

時間の矢のパラドックス

実は同じ1872年にボルツマンによってH定理というものが証明されています. これは分子論的な結果で, いわばマクロな熱力学の結果をミクロな統計物理学によって説明を与えようとしたものです. ところがその内容は「理想気体での不可逆過程によってエントロピーは増大する」というものでした. ミクロな物理学においての時間には反転対称性があるはずで, そこから不可逆な結果が得られるというのはあまりにもおかしい話です. ロシュミットはこれに対し反論し, 私たちはこのような状況を「時間の矢のパラドックス」と呼んでいるわけです. この事実は1990年代に成立した「ゆらぎ定理」によって一応の解釈をすることができました. ここらへんの事情は多分僕よりもヨビノリさんとかの方が詳しいんじゃないですかね? まあ気が向いたら記事でも書いておきます.

量子力学から熱力学第二法則が導出された

9月頃に東京大学工学部が発表しました. 概要には次のように書かれています. 抜粋してきました.

本研究では、マクロな世界の基本法則である熱力学第二法則を、まず第二法則が成り立つ精度を任意に決めて、その精度に対して熱浴のサイズを十分大きくとれば第二法則が成り立つ、という形で、数学的に厳密に定式化し、ミクロな世界の基本法則である量子力学から、理論的に導出することに成功しました。従来の研究とは異なり、カノニカル分布などの統計力学の概念を使うことなく、多体系の量子力学に基づいて、量子力学的な純粋状態についても第二法則が成り立つことを理論的に証明しました。さらに、ゆらぎの定理を同様の設定で証明することにも成功しました。 また、第二法則は情報エントロピーを用いた定式化になっているため、純粋状態においても情報と熱力学の関係が示されました。
本研究グループは、小さな量子系(システム)と大きな量子多体系(熱浴)が接触している格子系を考え、シュレーディンガー方程式に従って時間発展した際の全系のエントロピー生成を議論しました。その際、熱浴の初期状態は単一のエネルギー固有状態、すなわち純粋状態とすることにより、ほぼ全ての固有状態に対して、ある時間内においてはエントロピー生成がほとんど非負になる、つまり熱力学第二法則が成り立つことを証明しました。

量子力学はある程度知っているので概略は掴めますが, 読んでいるだけで面白そうな論文だなと思えてくる内容です.

以上のような経緯があるので, 熱力学第二法則は面白いんですね. でも熱力学はつらそうなので専攻する気にはならないです. 一介のディレッタントとして勉強させていただければ幸いです. 物理屋さん, 謹んでお願い申し上げます. よろしくお願いいたします.

*1:田崎晴明『熱力学―現代的な視点から』(2000, 培風館)